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ROUND4 直木賞選考会 前編

天童荒太「悼む人」

天童荒太 「悼む人」(文藝春秋)
3回目
当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
C B

あらすじはコチラ

大森世間的には『悼む人』が大本命ですね。

豊崎それなのにこれから痛いことを言わなくてはいけません。というわけで、大森さん、よろしくおねがいします(笑)、どうぞ!

大森映画化された『包帯クラブ』っていう短い小説を別にすると、天童作品としては『永遠の仔』以来の長編です。帯にも〈七年の歳月を費やした著者の最高到達点!〉とあるように、渾身の大作。「王様のブランチ」で特集された折りには、松田哲夫さんに「21世紀最高の傑作」と激賞されました。

豊崎主人公は坂築静人。全国各地、事件や事故でひとが死んだという情報を得ると、そのひとが生前誰に愛され、誰を愛し、どんなことでひとから感謝されていたかを周囲のひとびと、関係者に聞いたうえで、その死の現場に赴いて悼む、悼ませていただくという、とっっても立派な青年です。

大森その設定を聞いただけで、なんてイヤな小説なんだろうなと思うんですが(笑)、でも、覚悟して読みはじめると、前半は意外と読みやすいんですよ。静人を取材する偽悪的なルポライターの懐疑的な視点で語られるから、『包帯クラブ』よりはまだしもついていける。ところがですね、どんなにねじくれた心の持ち主も、“悼む人”に関わっているうちにどんどんいいひとになっていくという致命的な問題があって、最終的にみんないいひとになる。世の中に悼む人イズムが浸透してしまう。イエス・キリストものというか、一種の宗教小説のようなことに……。

豊崎ブランチ哲っちゃん(松田哲夫)のご意見をぜひうかがいたいものです。

大森北上次郎さんも、2008年のベストテンに入れてらっしゃいました。

豊崎……!!(絶句)

大森この小説に関しては、ぜひ、松田哲夫・北上次郎コンビで予想対談をしていただきたいですね。そうすれば必ずや、受賞本命◎、評価Aになることでありましょう。

豊崎きっと、われわれのこころ持ちのほうがねじくれているのでしょう。

大森もちろん!読者として選ばれてないんですよ。これね、「王様のブランチ」で取材VTRを見たときに驚いたんですけど、作中で静人がノートつけるじゃないですか。

豊崎デスノートならぬ悼むノートをね。

大森それとおなじのを、天童さんは何年もずっと毎日欠かさずつけてたらしいんですよ。その日の新聞記事から亡くなったひとをひとり選んで、そのひとについてノートにびっしり悼む気持ちを書いていく。静人の気持ちになるためにずっとそういうことをやっていたという話を聞いて、見上げた作家魂だなあ、小説を書くためにそこまでするんだなあと感心してたんですが、そのインタビューによると、本が出版されたあとも、まだそのノートをつけてらっしゃるとか。

豊崎……!!(再び絶句)

大森意味がわからない(笑)。いや、天童さん自身もレポーターに訊かれて、「意味があってはいけないんです」とか答えてましたけどね。もはや著者自身が小説と一体化している。たいへんいいひとなんだろうなと思います。

豊崎そういう方のことをあれこれ言うもんじゃないんですけど…………………ほんっと読んでて退屈だったなあ(笑)。だって単調なんですよ、とにかく悼んでばっかりで、意外性がまったくない。まあ、いいひとって大概つまんない生きもんって相場が決まってるんだから、しょうがないのかな。果してこれを推す選考委員がいるのでしょうか。

大森ちょっと想像つかないですね。人間が描けてる描けてないにうるさい渡辺淳一先生に、ぜひ忌憚のないご意見を言っていただきたい。こんなひとがはたしているのか。いるんだけど(笑)。

豊崎ああ、はじめてジュンちゃんと連帯できるかもしれない!あんたの言うとおりだよ、と。そして受賞できなかった天童さんを、みんなで悼ませていただきましょう。

大森落ちたひとを悼む!それはすごい新機軸だなあ。メッタ斬り!の罪滅ぼしに、直木賞落選者を悼む旅に出るわけ?

豊崎では、まずは悼みかたを覚えてください。不肖トヨザキ、昨夜、家で何度もやってみました。こうです。〈左膝を地面につきました。次に、右手を頭上に挙げ、空中に漂う何かを捕らえるようにして、自分の胸に運びます。左手を地面すれすれに下ろし、大地の息吹をすくうかのようにして胸へ運び、右手の上に重ね〉る。いや、やってみるとね、案外気持ちいい。自分に陶酔できんの(笑)。

大森そんなポーズだったのか。僕のなかでは桑田のイメージだったんだけど。ほら、右肘の手術から復帰したとき、マウンドでひざまずいて、ピッチャーズプレートに肘をあてて野球の神様に感謝を捧げたときのポーズですよ。毎回あの姿が頭に浮かんでたんですが、誤解でしたね。失礼しました。しかし、どこで悼めばよいのでしょうか。

豊崎やっぱり落選作を書いた机じゃないですか。こんにちは、執筆したお部屋を見せていただけませんでしょうか。この小説はどんなひとに読まれ、どんなひとにけなされ、どんな無惨な落とされ方をしたのでしょうか(笑)。

大森まわりの読者からもじっくり感想を聞いて、それがどんな小説だったのかを胸に刻むと。みんな、トヨザキさんにだけは悼まれたくないと思いますよ。

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