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ROUND3 直木賞選考会

井上荒野『切羽へ』

井上荒野『切羽へ』(新潮社)2回目 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
C B

あらすじはコチラ

豊崎直木賞も圧倒的に男性優位で、井上さんが紅一点です。前回候補になった『べーコン』よりは、こっちのほうが上ですね。私はそこは評価してあげたい。
大森ぼくは『ベーコン』のほうがよかったな。
豊崎この人の文章は悪くないです。それがエンタメ向きになってるかどうかはわかりませんけど。あと、主人公の女性と本土からやってきた男の関係を最終的にセックスに持ち込まないのがいい。それがジュンちゃん(渡辺淳一)向きかどうかはわかりませんけど。
大森田舎で夫婦が平和に暮らしているところに流れ者のワイルドな男がやってきて、奥さんのほうがよろめくとか、よろめきそうになるとかって話は、映画でも小説でも腐るほどあるわけですよ。それこそ、ジェイムズ・M・ケインの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を筆頭に。今の日本で、離島を舞台にそういうのを書く理由がよくわからない。
豊崎でも、直木賞仕様の書き方にはなってますよ。〈トンネルを掘っていくいちばん先を、切羽と言うとよ。トンネルがつながってしまえば、切羽はなくなってしまうとばってん、掘り続けている間は、いつも、いちばん先が、切羽〉。ねっ、誤読されないためにテーマがわかりやすく提示されてるでしょ。これぞ、選考委員対策(笑)。
大森「週刊ブックレビュー」でとりあげられたら、中江有里さんが朗読するところ。
豊崎ザッツ・ライト。
大森もし直木賞とったらゲストで呼ばれて、「舞台となっている離島は、お父さまの井上光晴さんゆかりの長崎県佐世保市崎戸がモデルだそうですが、炭鉱の島、崎戸を描くことにどのような思いを込められたんでしょうか」とか質問されそう。そういう意味でも、すごい直木賞向きの作品ですね。僕は対抗をつけました。
豊崎受賞してもおかしくない小説ではあります。でも、下半身ご意見番のジュンちゃんがどうかなあ。男と女の間に通う性愛の濃厚な雰囲気がないとか文句つけそうな気も。
大森いっそ、主婦視点のハードボイルド文体で書くとかっこよかったかも。
豊崎そんなまったく資質の異なる要求を井上さんにしたって!(笑)
大森まあね。でもサスペンスが高まりそうな、すごい緊張感のある場面も、わりあいあっさり流されてしまうのがもったいない。
豊崎「ミシルシ」って言葉が出てくるじゃない。で、本土から来た男が自分にとってミシルシなんだって自覚するわけですよセイってヒロインが。でも、恋愛不感症のわたしには、どうして彼が「ミシルシ」なのかってことがイマイチぴんとこなくて。たいした魅力も感じないんですけど。
大森インタビューを読むと、〈小説新潮〉連載のときは、石和をもっといい男にしてたんだって。でも、人を好きになるのに理屈はない、いい人だから惚れるわけじゃないんだと考えて、人物像を書き直したらしいよ。
豊崎はいはい、それは別にいいんですよ。いやな男でも全然かまわない。人は違和感から恋に落ちることだってあるんでしょうから。でも、その違和感もしくは異人感も含めて、ヒロインがこの男に性欲を伴う強い恋慕を抱く流れみたいなものが、わたしには伝わらなかったってことなんですよ。
大森いちばん印象的なのは、最初と最後の、本棚を壊すシーンですからね。本棚を壊す人なんて初めて! ドキッ! みたいな。
豊崎しかも、結構いい本棚みたいなんですよね。
大森大きすぎて部屋に入らないなら、普通は、誰か使ってくれませんか、となりそうなのに。
豊崎学校に持っていってもいいし、なんなら私にくれてもいいし。
大森そういう理不尽さに惚れてしまうわけですよ、きっと。知らないけど(笑)
豊崎セイが時々様子を見に行く老婆しずかさんのキャラが、いちばん立ってると思うなあ。入院してから淫夢でもだえるエピソードが素晴らしい。ところで、〈切羽までどんどん歩いていくとたい〉ってあるけど、切羽まで行けたんですか。行けなかったんですか。そんなことすら読み取れない私って、ちょっとどうなんですか。どんだけ恋愛小説に不向きなんですか。そんなわけで作品の評価は別として、自分にとって全く必要のない小説という感想しかないことにびっくりしちゃってます。
大森全部そうなんですけどね、今回。

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