文学賞メッタ斬り!

文学賞メッタ斬り!トップ > ROUND2 芥川賞選考会 > 木村紅美「月食の日」

ROUND 2芥川賞選考会

木村紅美「月食の日」

木村紅美「月食の日」(文學界5月号) 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B B-

あらすじはコチラ

豊崎津村記久子さんと木村紅美さんが残りました。津村さんはこれから直木賞にシフトチェンジできそうだけど、木村さんは無理だと思うんです。かといって芥川賞にもちょっと届かない感じの作風で。
大森がんばってるじゃないですか、今回は全盲の主人公。
豊崎背丈がやたら大きい全盲の男、有山隆がマッサージの仕事をしながらひとりで住んでるって設定です。で、盲目ということでよけいな警戒心をもたれないためか、隆には女友だちがやけに多く、かつてつきあってる女もいたと。盲目でも、隆は大男だから女子に警戒されないってことはないと思うんですけどねえ。ま、でも、そのへんを前提として、隆をめぐるひとびとを多視点で描いた小説になってます。隆が視点になってるところは、眼が見えないって語り口にしてあって、そこのところはすごく気をつかって書いてるなって印象は受けました。あと、月食が欠けていることの象徴という、あまりにもにわかりやすい隠喩になってますね。まあ、月食を“見る”場面は、いちばん盛り上がるエピソードにはなってるんですけど。えっと、わたしの評価はB-で、大森さんはB。
大森似たようなもんでしょ。
豊崎マイナスがついてないぶん、わたしよりほめてあげてくださいよ。もうちょっとやる気出しましょうよお、大森さんっ。
大森まあ、近所が舞台なんでね。本八幡が出て来るなんてけっこうめずらしいんで。
豊崎それで? それでマイナスつけなかったの?
大森隆が、昔の知り合い、幸正の家に食事に招かれる。幸正の妻の詩織がけっこう無神経な思考をする人間で、健常者のほうがまわりのことが見えてないねって話ですよね。全盲のひとと接することで浮かび上がって来るまわりのひとの真の姿みたいな。そういう小説なんじゃないでしょうか
豊崎詩織の描きかたはけっこういじわるですよね。
大森うん。隆の目を見て〈やっぱり視線を反らしたくなり、どうしてサングラスで隠してくれないのか不思議に思った〉りする。で、思わず作り笑顔になるんだけど〈この表情は彼には見えないのだ〉って安心したり。
豊崎どうせ見られないんだからって、お客さん迎えるのにおしゃれもしないで部屋着のまんまだし。そういう女子だからダンナに浮気されても気づかないってのがリアルに伝わるキャラクター造型がなされてます。あ、個人的に嬉しかったのは、詩織が隆に作って出すポルトガル料理のエピソード。アレンテージョって言って、豚とアサリを一緒に炒める料理なんですけど、わたしもポルトガル旅行に行って感動を覚えた味なんです。豚とアサリの組み合わせにみんな「えぇ〜?」って反応示すんですけど、アサリのうまみが豚にしみこんで、かなりおいしい料理なんですよ。これが出てくる小説ははじめて読みました。
大森失敗するけどね。
豊崎そう、なのに言い訳もせずに出しちゃう。詩織がかなりの負けず嫌いにして、隆を侮っていることがよくわかるエピソードですよね。ただねえ、もうちょっと全盲の隆が生身の男としてちゃんと描けててほしかったなあ。これじゃあ、装置にすぎないでしょ。
大森だからそんな長く語らなくても、と(笑)。芥川賞候補にならなかったらべつに悪口いわれることもないのに。まあ、文學界新人賞受賞者だから、芥川賞候補になるのは当然のコースなんだけど。

ページのトップへ