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ROUND 2芥川賞選考会
小野正嗣「マイクロバス」
| 小野正嗣「マイクロバス」(新潮4月号)2回目 | 当落予想 ◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴 |
作品評価 A〜D |
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|---|---|---|---|---|
| 大森 | 豊崎 | 大森 | 豊崎 | |
| … | ○ | B+ | A- | |
豊崎わたしは「マイクロバス」のほうが面白かったんですけど。
大森力作は力作だろうけど、この人、三島賞受賞作の『にぎやかな湾に背負われた船』を書いたのってもう7年ぐらい前ですよね。やってることがその頃とほとんど変わってない気がして、そんなに高くは評価できない。
豊崎そう? でも「マイクロバス」のほうがそれこそ芥川賞サイズなんかに収まるまいと、さらにわかりにくくなってるような気がして、わたしは好きだな。「見る/見られる」とか「現在/過去」が反転、浸食、溶解する様を意図的に文章化した小説だと思うんです。舞台は大分……小野さんの出身地ですね。小野さんにとってのマコンド村(ガルシア=マルケス『百年の孤独』より)みたいな感じなんだけど、入り組んだ海岸線をなぞるように走る国道388号線っと台風8号が不動のものとしてあって、そこを軸に過去と現在を行き来したり、幻と現実が交錯したりするのを、混沌と描いてる小説です。
大森田中弥生の「純文学F1説」で言うと、今回の候補作のほとんどが一般道路でも走れるクルマばっかり。なかには自転車で走ってるひともいますが(笑)。で、かろうじてF1カーっぽいのが「眼と太陽」と「マイクロバス」。エンジンが特殊すぎて公道は走れない。マイクロバスなのに(笑)。
豊崎で、F1仕様では芥川賞がとれないと。わたしも本命を付けきれないのは受賞自体は無理だと思うからです。シンちゃん(石原慎太郎)が理解できるはずないもん。理解する気も多分ないし。主人公の信男にはなんらかの障害があって、描写のはしばしから自閉症なのかって気もするんですけど、この小説は、その信男から見た世界を描いているパートがいちばん良く書けてると思うんですね。たとえば信男が倒れるシーン。作業用のヘルメットの上から棒で叩かれて〈信男は倒れた、いちどきに過剰なほどの事物が殺到した。それらはすべて瞬く間に蝿になった。世界を構成するあらゆる要素が、耳障りな低い音を立てる半透明の羽根をはやした黒い点となって、信男の体表のありとあらゆる場所をさわりつくそうとしていた〉。すばらしいなあ。わたしはこういう凝った文章が読みたいですよ、芥川賞候補作では。てらいなく文学と向かいあってる。世界文学を相手にしようとしている。そういう創作姿勢に対しては、ちゃんとした評価で応えたいです。
大森でもちょっと説明しすぎのところもない?〈台風8号は、暴風雨によって、この海辺の土地の大気にしみこんだ匂いをかき消し、岬や湾を激しく揺さぶることで、集落をその陥った忘却から引っぱり出したかったのかもしれない〉とか。
豊崎ああ、そこはたしかに小野さんの気持ちの弱さが出てしまってるのかも。うっかり芥川賞仕様になっちゃってる(笑)。そこまで説明しないとわかってくれない、シンちゃんとかテルちゃんとかシンちゃんとかシンちゃんがいるから。あと、マイクロバスや太陽まで擬人化してる文章がちょっとヘンテコで面白くない?
大森でも〈そんなマイクロバスだからこそ、ずっといっしょの信男の心はもちろん、信男の次に乗せる回数の多くなったヨシノ婆の気持ちが車体に染み入り、ふたりが願う行き先こそが、マイクロバス自体もまた行きたいと念ずるところになっていたのかもしれない〉。こう“かもしれない”がやたら多くて、読んでると「はっきりしろ!」とムカついてくる(笑)。“かもしれない”じゃないだろ、自分で書いてるんだからちゃんと知ってるだろ! って。
豊崎いや、しょせんマクロバスだから。そんなに頭よくないんですよ。「ぼ、ぼくはどこに行きたいんだったかな」って裸の大将みたいなキャラ(笑)。そういえば《群像》の合評で平田俊子さんが言ってましたよ。このマイクロバスは「となりのトトロ」のネコバスみたいだって。そう思うとちょっと世界が変わりますよね。森じゃなくて海岸線を走るネコバス。
大森ああ、「崖の上のポニョ」と繋がりますね。ジブリ小説。
豊崎(歌って)「ポニョポ〜ニョポニョ♪」。あ、じゃあ「マイクロバス」は宮崎アニメ化決定。なら、芥川賞なんかとれなくたっていいや。
