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ROUND 2芥川賞選考会

磯崎憲一郎「眼と太陽」

磯崎憲一郎「眼と太陽」(文藝・夏)初 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森> 豊崎 大森 豊崎
A- C+

あらすじはコチラ

豊崎大森さん、なんでA−なの?
大森だって、めちゃくちゃ面白いじゃん。
豊崎どこが?
大森いかにもダメ男小説みたいなんだけど、〈日本に帰るまえに、どうにかしてアメリカの女と寝ておかなければならない。当時の私はそんなことを考えていた〉って書き出しからもわかるように、時間のコントロールがひとつのテーマになっていて、いろんな時制が主人公の記憶のなかで自由にいったりきたりするのが読みどころになってる。頭のなかにあるいろんな過去がごちゃごちゃにずるずるずるって出て来る、その出て来かたがたいへん面白いという。たとえば、途中で仕事仲間の遠藤さんってひとがとつぜん話を始めて、これが9ページくらい続いてしまう。
豊崎そうそう、遠藤さんとピアニスト志望女子との恋の話がね、
大森で、どうなることかと思ったら、なにごともなく主人公の語りに戻ってしまう。
豊崎そこがいいって言うと思ってましたよ、あたしゃ。でもさ、それって(136回の候補だった)田中慎弥の『図書準備室』と同じでしょ。同じパターンでいいの?
大森面白いじゃん。
豊崎二番煎じで弱いよ、こんなの。
大森いやいや「図書準備室」の二番煎じと思うようなひとはいないと思うけど。
豊崎田中作品を読んだ人なら、あの衝撃とくらべて弱いと感じるんじゃないかな。この程度の変さかげんじゃ興醒めですよ。文藝賞を受賞したデビュー作『肝心の子供』の素晴らしさが10なら、これは1。わたしはガッカリしましたけどね。あえてひとつだけこの小説で面白いと思った点を挙げると、いきなり文章が大げさになるところかな。〈しかし、それでも良いではないか!〉とか。語り手はなんか変なんですよね。普通の精神状態にないんじゃないかという疑いを抱かせるキャラクター。
大森ときどき中原昌也になるんですよ。それでいうといちばん笑ったのは、突然意味もなく〈世界最大のクリスマスショップ〉へ行って、どんなにでかいかってことをえんえんと書きながら〈だがこの広さで「世界最大」を謳うというのは、やはり広告の誇張なのだろう〉と。でもそれは早合点で〈その体育館なみの売り場のいちばん端まで進むと、そこに両開きのドアがある。その向こうには同じような広さの売り場がまだ続いているのだ。だがこの店のすごいところは、次の売り場の向こうにも、そのまた向こうにも、売り場が続いていることだった〉って描写してから、なぜこんな店があるのかえんえん自問自答をつづける。この自己ツッコミ芸。
豊崎はいはい、そういう記述は面白いと思いますよ。でも、この小説で磯崎さんはなにがしたかったんですの? なにが書きたかったんですの? 教えて、大森さん。わたしはどう受け止めていいのかわからなかったので。
大森たとえば〈日本に帰るまえに、どうにかしてアメリカの女と寝ておかなければならない〉と思って寝た女と突然結婚を決意するシーンがあるじゃない。
豊崎ああ、腋毛ね。
大森そう。〈髪はブロンドなのに、確かにそれは黒い腋毛だった。そのときに私は、この女と結婚しなくてはならない、と知らされた〉。〈知らされた〉ですよ(笑)。
豊崎〈誰も知らないこの秘密を知ってしまったからには、おまえはこの女と共に暮らさなければならない。この女こそが定められた相手なのだ〉。
大森要するに、人生なんて、必然性とか運命に導かれているもんじゃなくて、くだらない偶然の産物なのに、解釈次第で感動的だったり神話的だったりする物語になるんだと。行き当たりばったりの中から必然が生じて、最後は詐欺のように美しい家族小説になるわけですよ。
豊崎ふーん。そんなことなんだ、書きたいのは。ふーん。でも結局、中原昌也的だったり田中慎弥的だったするところが、あの2人ほど突き抜けてなくて中途半端だから、わたしは魅力を覚えないなあ。
大森いやいや、ここまでで止めてるからいいんですよ。これが、残念賞(三島賞)組に入れられずに、まだぎりぎり芥川賞をねらえるラインなんです。

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