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ROUND 2芥川賞選考会
楊逸「時が滲む朝」
| 楊逸「時が滲む朝」(文學界6月号)2回目 | 当落予想 ◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴 |
作品評価 A〜D |
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|---|---|---|---|---|
| 大森 | 豊崎 | 大森 | 豊崎 | |
| ◎ | ◎ | C | B | |
豊崎(当落予想表を眺めて)うーん……。
大森はああああー(ため息)。
豊崎もー……どうすればいいんだろ。候補作発表と同時にいろんなひとからメールもらって、今回は候補作が地味すぎるので、望みの綱は「メッタ斬り!」だけとか言われてるんですけど、困りましたねえ。
大森ははは。なーんにも盛り上がらない。まあね、考えてみれば前回の盛り上がりのほうが完全に異常だったわけで、本来、こんなもんなんですよ。今回は、芥川賞直木賞あわせても、楊逸さんくらいしか話題がない。
豊崎楊さんシフトですよね。なんせ北京オリンピックイヤーですから、芥川賞はどうあっても中国出身の楊さんに授賞したいんでしょう。
大森新聞各紙が朝刊の一面を空けて待ってる。どう考えても楊さんがとるしかないと思いました。候補作だけ見た段階では。作品を読むと若干不安が起きるんだけど(笑)。1988年に西安の名門大学(作中では架空の大学名が使われています)に入った青年を主人公に、天安門事件から北京オリンピックまでを描くという、もうあざといとしか言い様のないジャーナリスティックなネタ。なのに作風がぜんぜんジャーナリスティックじゃないところになんともいえない不思議なミスマッチ感があって。
豊崎楊さんの作風って、前回の候補作『ワンちゃん』でも思ったんだけど、フジテレビの日曜日の二時からやってるドキュメンタリーがあるじゃないですか、「ザ・ノンフィクション」。あれみたいじゃない? こう、なんとも言えずダサい感じが。
大森はいはい。もっと乱暴にいうと「ドキュメント 女ののど自慢」系。フジテレビと幻冬舎の「感動ノンフィクション大賞」とか、そういうところにピッタリはまりそうな。
豊崎かりにも芥川賞候補作に対して、なんたる無礼な発言(笑)。しかし今回はタイトルもちょっとありえないくらいすごいですよね。「時が滲む朝」! なに? トワ・エ・モア? 北京ならぬ札幌オリンピックのテーマソングのタイトルかと思っちゃいましたよ。しかも尾崎豊フィーチャー小説という読み方もでき。
大森〈秦都の空港で尾崎豊の「I LOVE YOU」をはじめて聞いたときの震撼は時が経っても忘れられない。意味のわからない歌詞が胸の共鳴を弱めることをちっともなく、「I LOVE YOU」と叫び出した瞬間、コンクリートのような何かで固められた己が、どんどん壊れて崩れ落ちていって、あっと言う間にガラクタと化してしまう〉。こういう一節を《文學界》で読むのは衝撃的な体験でした。でも、歌詞の意味がわからずに洋楽として聴く「I LOVE YOU」は沁みるかもしれない。しかもこれ、主人公は1970年前後生まれでしょ。そういう意味での尾崎豊のリアリティみたいなものはたいへんよく出ている。
豊崎Tシャツショップのシーンも、笑ったなあ。主人公が親友とTシャツに愛国精神を示す文字を入れてもらおうとするんですけど。
大森すばらしい。爆笑した。〈我愛中国〉とか〈我要民主〉とか、決まりのパターンがるつからこの中から選べって言うのに、主人公は絶対ひきさがらない。〈そうだ、中国地図を入れて、その上に“I love You”を入れるってどう?〉とか言い始めるわ、しかも愛国運動のためだから安くしろとか。
豊崎〈“You”の文字を北京の場所に合せて、そうねoの中に国旗を挿したら、素晴らしいだろう!〉いや、ある意味素晴らしいと思いますよ(笑)。こう言うと問題があるのかもしれませんけど、なんか、このシーンにものすっごい中国を感じた。
大森これはすごく中国人を描けてると思った。「ワンちゃん」と比べて面白かったのはそこかな。
豊崎でも、このラストはないと思うんですよねえ。〈「ふるさとはね、自分の生まれる、そして、死ぬところです。お父さんやお母さんや兄弟たちのいる、暖かい家ですよ」「じゃ、たっくんのふるさとは日本だね」〉って、もうさあ……ふがーっ!!
大森まあまあまあまあまあ。日中友好の一助となるなら、芥川賞くらい安いもんでしょう。中国当局が喜んでくれるかどうかは微妙ですけど。