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ROUND 3芥川賞選考会

桜庭一樹『私の男』

桜庭一樹『私の男』(文藝春秋) 2回目 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
A A

あらすじはコチラ

大森ベテラン勢が返り咲く中、若手でひとりだけ候補に入ったのが桜庭一樹。対抗馬と目されていた伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』は次回送りになったみたいだし、森見登美彦『有頂天家族』はあえなく落選。時代小説ならこれが有力と僕が勝手に予想していた葉室麟『銀漢の賦』も候補から洩れて、いよいよこれしかないだろうと思うんですが……。その『私の男』だって、文句をつけようと思えば、いろいろつけられる。

豊崎ミステリーの部分で突っ込まれる可能性はあるでしょうね。押し入れに死体隠してたら、臭くてみんな気づきますよ、とか。

大森そんなのどうでもいいじゃんと思うけど。

豊崎同感。『私の男』は、ミステリの文脈で読まなくていい小説だと思うんです。主人公の花と十六歳年上の養父の淳悟。このふたりの背徳的な関係を丹念に描いた傑作なんですから。淳悟が花に向かってなんども言う「お…」ていうことばの意味がわかる瞬間なんて鳥肌が立ちましたもん。桜庭さんは、読者を引っ張る力、グリップが強い作家ですよね。

大森ストーリーとか伏線とかもどうでもよくて、淳悟をいかにかっこよく書くか、愛欲をいかに濃密に描写するかっていう桜庭さんの筆のすごさに惚れた。ミステリチャンネルの「闘うベストテン」で福井健太が『私の男』を候補に入れてきたとき、「ミステリーじゃないじゃん!」ってさんざん文句を言ったんだけど、よく考えてみたら、作中で殺人が起きてるし、死体を隠したりしてる。そりゃまあ、ミステリっていえばミステリだよなと考え直したんだけど、つまりそのときまで、そんな要素があったことをすっかり忘れてんですよ。ミステリかもしれないけど、でもそんなの関係ねえ!

豊崎カメラの謎なんかもつっこまれそう。殺された男の持っていたカメラ。それを現像さえすれば真犯人がわかるのに、なんで花を追ってきた〈田岡〉はそうしなかったのかっていう。

大森なるほどね。でもそんなの関係ねえ!(笑)

豊崎現像すれば犯人わかるわけでしょ?田岡、警察官なのに。あ、ここでも警官の血が流れるよっ(笑)。そういう瑕瑾を選考委員が指摘しはじめちゃうと、桜庭さんはまだ二回めの候補だから今回は……ということで『警官の血』の単独受賞……うわ、ありそうでやだなー。

大森『私の男』が沈没すると、じゃあかわりに何が来るのか、今回はさっぱりわからない。どれも消せないんですよ。罪滅ぼしで古処さんがするっと来たりするかもしれないし。

豊崎桜庭さんは、もし『私の男』で直木賞とれなくても、きっと近い将来他の小説でとるでしょう。でも、これであげてほしいですよ、わたしはっ。たぶん、作家桜庭一樹の初期の問題作にして代表作に呼ばれるようになる小説なんだから、これで受賞したら励みになると思うんです。馳さんだって『約束の地で』より『ダーク・ムーン』みたいな小説で欲しかったんじゃない?作家の励みになるかどうかってことも選考委員の先生には考えていただきたい。でね、その選考委員にとっては前回候補になった『赤朽葉家の伝説』の記憶がまだ新たじゃないですか。それはやっぱりいいふうに働くと大森さんは思う?

大森うん。ぜんぜん違うもので勝負してきたから、実力がある作家だという印象にはなるでしょう。

豊崎直木賞って、純粋に作品に与えるというより、今後も話題になるような本を書き続けられるかどうかっていう筆力をみる要素も強いでしょ?なら、桜庭さんには筆の勢いもあるし、書ける作品の幅も広そうだぞっていうので、いい評価をしてもらっていいと思うんだけどなあ。

大森でも、代表作とか、いちばんいい作品に授賞しないのが直木賞の得意技だからねえ。それに直木賞を先にとってしまうと、吉川英治文学新人賞も山本周五郎賞もとれなくなる。順番に全部とるつもりなら、直木賞はもうちょっと先でもいいという考え方もあるよ(笑)。

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