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ROUND 3芥川賞選考会

古処誠二『敵影』

古処誠二『敵影』(新潮社) 3回目 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B+ B+

あらすじはコチラ

豊崎えらいですよ、古処誠二さんは。候補になるたんびに、体験してない世代の描く戦争小説にしょせんリアリティはないんだって、どんだけ否定されてきたことか。それでも書き続けるっていう意地と志がすばらしい。

大森おもに津本陽先生に否定されてきたわけですが。

豊崎そう、その最大の抵抗勢力、ツモ爺が選考委員を辞めたいま、沖縄の捕虜収容所を舞台とした作品でノミネートされたわけですよ。

大森しかし、『七月七日』が候補になったとき(参照)に強く推してくれた田辺聖子も、すでに辞めてしまっていて。

豊崎結局、プラスマイナスゼロからのスタートですね(笑)。古処誠二さんってよくも悪くもまじめでしょ。終戦を迎えた捕虜収容所で、明確な「敵」を失ったひとたちが、また敵を探す姿を通して、常に敵影を求め続けずにはいられない人間の性(さが)を追究する。その姿勢はいいと思うんですけど、残念なのは、なんでもかんでも地の文で明かすことなんですよ。それがうるさい。米軍側のボクサーと捕虜側の柔道の有段者がスポーツマンシップにのっとって闘うクライマックスなんて、すごくわくわくするシーンのはずなのに、捕虜たちが興奮してるところで〈もとより階級などない。囲われた自由を与えられ、その使い方も知らず、あげくの果てに持て余し、治外法権と解釈した捕虜もいる〉とか冷静に説明しちゃうから、興奮と感動が大きくそがれちゃう。状況から心理まこれほど説明過多になっちゃうってのは、読者に対する「ここまで書かないとわからないんじゃないか」っていう不信感でもあるんですかね。あと、ラストの描写がちょっと素朴すぎませんかね? 民芸の芝居かと思っちゃった。「ああ、今日もおやまがきれいだー」みたいなさ(笑)。素朴すぎるだろう、いくらなんでも。

大森ほんとだ、たしかに劇団民芸っぽい。『ビルマの竪琴』を現代小説として書くとこうなるって感じなのか。

豊崎そうそう。北林谷栄が沖縄のオバアとして出てきちゃいそう。で、宇野重吉がナレーションで登場人物の心理をぜんぶ説明してくれちゃうの。

大森そこまで説明的じゃないと思うけどなあ。まあしかし、津本さんがいなくなったとは言え、『敵影』での受賞は難しいでしょう。

豊崎あとわたしが気になったのは〈丈夫な者から兵隊に取られ、誠実な者から死んでいく。生き残った不誠実な者は、将校に罪をなすりつけ、軍に罪をなすりつけ、国に罪をなすりつけ、他人に罪をなすりつける〉ってあるでしょう? これ読んだら生き残ったひとたちは怒るなあと思った。ツモ爺じゃなくても怒っちゃうんじゃないかなあ。クリシェな物言いだし、わざわざ表明するほどの人生哲学でもないんだからやめればよかったのに。

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