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ROUND 3芥川賞選考会

馳星周『約束の地で』

馳星周『約束の地で』(集英社) 5回目 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B B

あらすじはコチラ

豊崎馳星周もすごい久しぶりの候補。

大森『不夜城』 『夜光虫』 『M』『生誕祭』に続いて4年ぶり五回目です。

豊崎でも、なんで『約束の地で』なんですか?カナダのバンクーバーを舞台にした長編があったじゃないですか。ああいう力作、意欲作であげるべきなんじゃないの?

大森『ダークムーン』ね。あれは直木賞候補にもなってなくて、山本周五郎賞落選作ですよ。でも、僕は『約束の地で』を候補にするのは正解だと思うなあ。長編よりとりやすいでしょ。

豊崎そうなの? だってさ、こういう作品が馳さんの本分なのかなあ。北海道を舞台とした五編の短編集で、登場人物たちががゆるやかにつながっていく連作短編集なわけですけど、。

大森前の短編に出て来たひとが次の短編に出て来る。で、巻頭の短編が時系列的にはいちばん最後の話になる。

豊崎びっくりするほどさらさらーっと読めちゃった。しかも、なかには、黒い石田衣良みたいな話とかもあるわけじゃないですか。

大森はいはい。

豊崎本来は『ダークムーン』みたいにみっちりどっしりした作品が持ち味な作家なのに。

大森その路線だととれそうにないから、違う方向に足を踏み出したもので候補にするっていうのも、考え方としては正しいんじゃないの。

豊崎いちばんの謎が、帯にある著者のことばで〈ヘミングウェイのように書いてみたい〉ってあるんだけど、なにがヘミングウェイなのかまったくわからなかった。たしかにみっちりしてないところが、そうなのかなって思ったけど、これはヘミングウェイの文体じゃないし。

大森まあ、エルロイ(文体)がだいぶ抜けて来たと。

豊崎あとね、ケモノバカ一代トヨザキとして見逃せないのが二作めの「みゃあ、みゃあ、みゃあ」。文芸界の動物愛護団体会長としては、これはレッドカードでしたね。猫の扱いが道具でしかないんですよ。

大森でも、このご時世に子猫を捨てる話を書く勇気は評価したい。しかも五匹もいっぺんにダンボールに詰めて川に流してしまう。えらいね。

豊崎えーらーいーかーなーあー。

大森馳星周の原体験が背景にあるらしい。「青春と読書」の対談で言ってるんだけど、「猫を川に捨てるというのは、ぼく自身がやったことなんですよ。5歳くらいでしたけど、そのときに、ああ人生は楽しいことばかりじゃないんだと思った(笑)」って。

豊崎だけどその行為が、アルツハイマーの母親を介護する主人公の心象風景や状況を映す鏡のようにしか扱われてないと思うんですよ。このなかの猫って生きてないんだもん、ぜんぜん。生きてないのに殺してるんだもんっ。でも、三作めの「世界の終わり」に出て来るジャック・ラッセル・テリアのほうは、ちゃんと生きておりました。馳星周、さすが犬バカ。

大森「世界の終わり」は傑作ですね。

豊崎うん、このなかでいちばんいいと思う。この一編だったら直木賞をとってもいいって気がしました。描かれてるのはいつものある種の救いようのない状況なんだけど、これまでの馳星周とはちょっとトーンが違う。子どもが語り手になってるからなんでしょうね。で、これが先述した黒石田衣良な話でもあるわけで。途中まで、どうしちゃっんだろうって思うくらいいいお話なんです。リュックに犬をいれた少年が、スクーターに乗って荒れ果てた鉱業開発予定地に行って、たまたま骨を発見したところから、世界の終わりを夢見るっていう物語。だけど、最後がねえ。

大森そうそう。ちょっとやりすぎ。傷害ぐらいならともかく、ナイフで警官二人を刺し殺しちゃうのは、物理的にも難しいんじゃないか。

豊崎思った思った。子供の力でナイフツールの刃渡りじゃ大の大人を殺すのは無理ですよ。

大森しかしまあ、そこで傷つけることによって“警官の血”が流れると。そういうつながりなんですね(笑)。

豊崎ええっ、そんな理由で候補になってるの?出たよっ、大森さんのバカ深読みが。

大森馳星周も直木賞候補になるのは五回めだし、このあたりでそろそろ……というタイミング。北方謙三さんがどれぐらい推すか、ですよね。

豊崎北方さんがキャスティングボートを握ってる直木賞ってことですか。

大森前回は北村(薫)さんを推し切れずに玉砕してますからね。しかも今回は黒川博行と佐々木譲もいる。どうしたらいいのか頭を抱える感じじゃないでしょうか。

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