文学賞メッタ斬り!

文学賞メッタ斬り!トップ > ROUND3 直木賞選考会 > 佐々木譲『警官の血』

ROUND 3芥川賞選考会

佐々木譲『警官の血』

佐々木譲『警官の血』 (新潮社)2回目 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B B

あらすじはコチラ

大森今回の直木賞候補作のラインナップはかなり謎。

豊崎うん、謎。

大森最近の流れを見て、このまま世代交代が進むのかと思ってたら、今回は、むかし候補になったきり放置されていた“中二階”の人たちがひさしぶりにどどっと巻き返してきた。黒川博行(第126回『国境』から7年ぶり)とか、馳星周(第130回『生誕祭』から4年ぶり)とか。

豊崎いままでちょっと捨て置かれてて、踊り場かどっかにいたんだよね。

大森佐々木譲に至っては、第100回『ベルリン飛行指令』から19年ぶり。オール讀物新人賞を受賞したのが1979年だから、デビュー29年目ですよ。選考委員の林真理子や浅田次郎よりキャリアが長い。中二階どころじゃない。踊り場でもなくて、ほとんど神棚というか屋根裏というか。

豊崎過去の亡霊が現れたようなね。

大森年齢的にも、黒川さんは1949年生まれ、佐々木さんは1950年生まれ。

豊崎しかも作品の傾向がかぶりすぎ! これは選考委員の先生たちもかわいそう。

大森そうそう。なにも『警官の血』と『悪果』を同時に候補にしなくても。前回の反省(時代設定と雰囲気が似通った北村薫『玻璃の天』と三田完『俳風三麗花』が同時に候補となり、ともに落選した)が生かされてない。

豊崎どちらも警察官の世界をみっちりこってり描いた作品ですからね。とくに『警官の血』は戦後から現代にいたる昭和史をたどりながら、三代にわたって警察に奉職した男たちの姿を上下二巻にわたって描いた力作大河小説でしょ。わたしの中の警官桶はこの作品だけでいっぱいになりました。もう一滴も入らない(笑)。ところがこの作品、ミステリー界隈では絶賛されてるんですよね。

大森『このミステリーがすごい!』の1位になりましたからね。ちなみに2位は、女三代を描いた桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』で、『警官の血』が僅差で競り勝った。今回の『このミス』は女三代vs男三代の三代記対決だったんですよ。そして今回の直木賞でも、桜庭・佐々木対決再び!という図式。年齢差20歳。

豊崎戦後の混乱のなかで警察官となり、地元のひとたちと交流できる駐在所勤務を選んだ清二。警察官になって学生運動の潜入捜査で精神を失調、そのストレスからアルコール依存症になり、妻に暴力をふるうようになる民雄も、父と同じ駐在所勤務になってからはじぶんを取り戻す。そういう父の複雑な姿を見て育った和也も警官になる。三代それぞれの警察官人生が描かれていて、スチュワート・ウッズの『警察署長』を引き合いに出して評価するひともいます。

大森アメリカの田舎町だといかにもありそうな話に見えるんですが、それが東京の話になると、なんかねえ、どうもリアルに見えない。しかも、ミステリの構造としては、三代にわたって謎がひっぱられる。

豊崎おじいさんの清二がなぜ死んだのかってことと、清二が調べていた二件の未解決の殺人事件の真相を、民雄、和也が引き継いで追求していく。.

大森上野公園の視察にやってきた警視総監が女装したオカマたちに囲まれて殴られた椿事とか、実際にあった昭和史の出来事をうまくからめてるんですが、やっぱりちょっと長すぎて、途中で焦点がぼける。三代のバランスをとって、じっくり誠実に書くスタイルが裏目に出た感じ。

豊崎謎が明かされることで、単純なヒーローものにならないところは美点かなあとは思いましたけどね。

ページのトップへ