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ROUND 2芥川賞選考会

津村記久子『カソウスキの行方』

津村記久子『カソウスキの行方』(「群像」2007.9) 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B+ B+

あらすじはコチラ

豊崎ナオコーラと比べると、こっちの方が達者は達者です。

大森絲山明子路線ですね。「カツラ美容室」の男女を逆にしたような、プロレタリアートものというか、下層正社員もの。

豊崎津村さんは太宰治賞をとった『君は永遠にそいつらより若い』という女童貞をヒロインにした女性の味方小説を書いていて、それがすごく評判がいい。そっちを読んだ人間からすると、「カソウスキ」はこじんまりしちゃったかな、という気がしないでもないです。タイトルはうまいですよね。

大森ええーっ!! “カソウスキ”はちょっと勘弁してほしいと思ったけどな。

豊崎「切れた鎖」よりいいでしょー。

大森主人公が自分で「仮想の恋人好き」からカソウスキと名付けちゃうのは、そういうキャラの主人公なんだと思えば耐えられるけど、タイトルについてると……。

豊崎〈HDの空き領域を仮想メモリにあててPCのパフォーマンスを上げるのは自分次第〉とあって〈仮想好き。これで文字数も減った〉って記述があるからヒロインが自分で作ったんですよ。許してあげて(笑)。

大森いまどき仮想メモリなんて使わないだろ、メモリ1GBとか積んでるじゃん! とか思うと、作中では、ケチくさい会社がいまだにWindows98時代かなんかの古いパソコン使ってるせいで、下層社員のヒロインはそういう古代のワザを習得せざるを得なかったという設定なんですね。だからまあ、合ってるといえば合ってる(笑)。

豊崎わざとスカスカにしてるナオコーラ作品とは逆で、この人のはディテール描写が命だと思うんですね。たとえば冒頭、備品のカタログ見てかわいい付箋にうっとりしてるんだけど、注文しても買ってもらえないよね、と思ってる。そこでこの会社のありようとか、主人公の置かれてる立場や感性のありかをほのめかしてるんです。あと、郊外生活者は車がないと買い物ひとつ不自由するとか、友達の彼氏を働いてるカフェに行ってこっそり見るとかいったエピソードもリアルで、主人公の女性に作り物感がない。クリシェで申し訳ないけど、等身大で立体的なキャラになってます。

大森ショッピングモールは送迎バス以外に公共交通機関がなくて、そのバスの最終に乗り遅れると身動きがとれなくなるとかね。実際に乗り遅れたらどうなるかという話も面白かった。いかにもありそうで。

豊崎ただ、実家の設定がねえ。〈代りばえしない狭い公団の一室で、兄は働かず、母はそれに付きっきりで、父は家庭の中の独身者のように浮いていた〉って、ベタすぎませんか。

大森そこは出さなくてもよかった気がした。

豊崎こういう家庭事情、この主人公には必要ないでしょう。それと、28歳でこの状態といっても、正直まだ同情できない。まだいくらでも恋人できるし、結婚だってできるよって思ってしまいました。

大森そういうことを目的にしてるんじゃないから。「カツラ美容室」の男もそうだけど、「カソウスキ」の主人公も同情すべきキャラクターとして書いているわけじゃない。自分の境遇がそんなに悲惨だと思ってるわけでもなくて、ただ恋人でもいたらもうちょっと楽しいかもと思って、仮想的に作るわけですよ。

豊崎ああ、たしかに仮想好きをもてあそぶのは、閑職に回された退屈にまかせてってとこがありますからね。会社への不満や怒りはあっても、自分を憐れむという視線はこの主人公にはない。

大森そりゃあプレカリアートとかワーキングプアの人から見ると、正社員はろくな仕事しなくても給料もらえていいよなと石を投げられますよ。

豊崎この人は絲山系だから、今後直木賞にも回されそうですよね。ここ何年か、芥川賞と直木賞に両足かけてる作風の女性作家が増えてますね。わたしが好きなとこだと朝倉かすみや中島京子。

大森中島たい子とか。

豊崎共通項は、みんなうまいこと。この人だってデビューして間もないのにここまで書けるなんて。オチがいやらしい思えてしまうほど達者です。でもこのうまさが、純文学ぽくないともいえるかもしれませんね。

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