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ROUND 2芥川賞選考会
山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』
| 山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』(文藝秋号) 2回目(単行本) |
当落予想 ◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴 |
作品評価 A〜D |
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|---|---|---|---|---|
| 大森 | 豊崎 | 大森 | 豊崎 | |
| ▲ | ○ | B | A- | |

豊崎「切れた鎖」と対極にあるのが、「カツラ美容室別室」ですね。これは、誰もが内に抱く凡庸なエゴイズムを律儀に描いた小説です。田中慎弥の文章は暑苦しいくらいみっちりしてるけど、ナオコーラはスカスカ。もちろんわざとやってるんだろうけど、あえて描写しない、説明しない。場面や心理が変わるとき1行あきにしてるのが特徴です。
大森あの1行あきはちょっとイヤ。
豊崎主人公の〈オレ〉みたいな恋愛ができない、恋愛受容体が未熟な男、そこに目をつけたのは慧眼だと思います。〈ひとりメシ、ひとり住まい、悪くない〉とか、〈疲れる女といるよりも、アパートで牛乳を温める方がいい〉とか。こういう男子増えてるじゃないですか。悩みを相談すれば聞いてくれるし、一見穏やかで優しいんだけど実がない。相談されて適当なことを答えた後に〈などという芯のない科白を、オートマティックに口にした〉とか自分を客観視しちゃう醒めた感じの男子の描出は見事です。
大森リアルはリアル。これは高円寺小説ですよね。しかも一昔前の。
豊崎中央線小説ですね。
大森美容室に集まる客同士で花見に行ったりする文化が、たしかにあのへんにはあるような気がする。なぜか一緒に旅行に行ったりするんですよ、新宿から西の人たちは。
豊崎そーそー、いまだ70年代の空気を生きてるっていうか、そういう感じはよく出てますよね。あと、ナオコーラは目と耳がいい。ファミレスのシーンは、うまいですよ。親子4人がメニュー見ながら話してるんだけど、そうそう、子供ってああいうこと言うよねとか、ああやって騒ぐよね、とかっていうリアルな描写になってて。特に必要なシーンじゃないんだろうけど、こういう一見無駄な場面が物語にふくらみをもたらしてると思います。
大森お仕事小説の面もあって、美容室の店長と、エリと、年下なのに追い抜いちゃう桃井さん、その3人の微妙な関係の変化が面白い。
豊崎店長のカツラさんがいなくなったあと、お客がカツラさんが美容師なのに禿げであるってことに関して軽口をたたくとエリがグーで殴るじゃない。新店長になった桃井さんも「大丈夫ですか」とは言うんだけど謝らない。それを見ていたオレがイライラして〈何故この女たちには謝罪をしようという意識がないのか〉っていうとこがおかしかった。ナオコーラは得も言われぬ独特のユーモアセンスがあって捨てきれない作家です。ただ欠陥もあって、小説のテーマを自分で書いてしまってるでしょ。〈相手の心を覗くことは、相手の心を予想することとは違う〉〈理解は不可能で、誤解だけが可能。知らないということを深めたくて、心を覗くのだ〉とか、いらないよね。書かないで、読者にそう感じさせなきゃならない物語なのに。でも、かわいいからちょっとした欠点には目をつぶりたい。ツモ爺(津本陽)じゃないけど、ほかほかの白パンを手の中でころがしてるみたいな、そんな幸福感を与えてくれたので、私はわりと好感を持ってこの小説を読みました。
大森文藝賞受賞したデビュー作の「人のセックスを笑うな」は、132回芥川賞の候補になり、去年、映画化もされましたけど、小説としてはずっとうまくなってると思います。
