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ROUND 2芥川賞選考会
田中慎弥『切れた鎖』
| 田中慎弥『切れた鎖』(「新潮」2007.12) 2回目 | 当落予想 ◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴 |
作品評価 A〜D |
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|---|---|---|---|---|
| 大森 | 豊崎 | 大森 | 豊崎 | |
| … | … | B | B- | |
大森田中慎弥も、136回の「図書準備室」(参照)に続いて2度目の候補。
豊崎このタイトルはいかがなものか。タイトルご意見番であるテルちゃん(宮本輝)の感想が楽しみではありますね。山口の海峡近くの町で、コンクリで財をなした一族の遺産で暮らしている、視点人物である母親と、同棲を解消して出戻ってきた娘と幼稚園児の孫娘、女三代の話なんですが。
大森『赤朽葉家の伝説』(桜庭一樹)の田中慎弥版。
豊崎古い家の裏には、在日朝鮮人たちの新興宗教めいた教会があり、かつて一族の入り婿となった夫がそこの女性と深い仲になって、男の子を産ませ、そのまま家を出てしまったことを、視点人物は今でも深く恨んでいます。
大森その男の子が教会の敷地にずっと住んでるんじゃないかとか、教会に関していろんなことを想像しているんだけど、事実かどうかはわからない。
豊崎この視点人物の母親のキャラクターが凄まじい。自分の娘に、あんたは子供を産んで股がゆるゆるになったから向こうの女に走ったんじゃないかとか、朝鮮人は日本人にとっては犬だだの、犬のくせに人間ぶるだの、ののしり方が尋常じゃありません。戻ってきた婿を真っ裸にして塩をこすりつけて洗うとか、そこはかとなく嫌な気持にさせられるシーンが多々ある小説です。一見不快なことを描きながら、不思議と嫌な気持にさせない西村賢太とは全く逆。
大森田中慎弥作品としては、新境地にチャレンジした意欲作ですね。自分の中の話をぶちまけてみました的な前2作(『図書準備室』に収録の「冷たい水の羊」「図書準備室」)に比べると。
豊崎差別、土地、信仰、血とか、そういう重いテーマを含ませて書いたということなんでしょうね。
大森この人の場合は、社会的なテーマを扱わないほうが、結果的に社会的な小説になるような気がする。
豊崎わたしもむしろ、田舎にいまだ残る無体な差別意識を徹底的に描いた方が面白かったんじゃないかと思います。先述のお母さん像をもっとふくらませてほしかった。お母さんが娘に、その娘もまた孫に悪意や差別意識を刷り込んでいくという、負の連鎖のいやらしさこそをネチネチと描いてほしかったです。いいところもあるとは思うんだけど、全体を読むと賢太の引き立て役にしかなれていないような気がしちゃって
大森賢太は天然というか、自分の好きなことしか書いてないけど、今回の田中慎弥は、タイトルが象徴するように、「ブンガク的な方向でがんばってみました」という印象。
豊崎中村文則あたりと比べると、純文学のとらえ方が、まだしもひねてるような気がして頼もしくはあるんですけどね。中村さんはほんと素直でしょ。
大森中村文則方向に足を踏み出してるのかもしれないけど、本人はやっぱり変な人なんで、中村文則にはなりきれない。つまり、芥川賞はとりきれない。
豊崎でも、やっぱり私は「図書準備室」の方が好きだな。
大森さんざん嫌いだって言ってたじゃん。Dとかつけてなかった?(参照)
豊崎いやいや、作品としてはD評価でしたけど、好きは好きだったんですよっ。幼稚なんだけど得体の知れないエネルギーを持ってそうなとことか、巧まずして笑えるところが。
大森136回の予想でくわしく語ったように、「図書準備室」は傑作でしたからね。あれに比べると甘いというか、普通になっちゃった。
豊崎せっかくあんなわけわかんない、すごいといえばすごい場所にいた慎弥を、編集者がこんなところまで引きずりおろしてしまったんじゃないの。「もうちょっとわかる小説書きましょうよ」とか言って。Dつけてといてこんなこと言うのもなんですけど(笑)、元の荒野に戻った方がいいかと。
大森でも、いろんな方向にチャレンジすることで、すごい変なものが出てくる可能性もあるので。まだ今回は板についていない気がしますけど、思ったよりはサマになっている。
豊崎気になる作家ではありますよね。読み流せない。どこに変な記述があるかわからないから、じっくり丁寧に読まされてしまうという不思議な作風。
大森変なものを抱えた、過剰なキャラクターがいいですよね。
