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ROUND 2芥川賞選考会

西村賢太『小銭をかぞえる』

西村賢太『小銭をかぞえる』(「文學界」2007.11) 2回目 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B B+

あらすじはコチラ

大森どのへんから行きますか? 西村賢太は、134回の「どうで死ぬ身の一踊り」参照)に続いて二度目の候補。まあ、これでとることはありえないでしょうが。

豊崎でも賢太好きだなー。いつもながらの藤澤清造シリーズで、いつもながらの酒癖の悪さで、いつもながらの逆ギレなんだけど、なんでこう飽きないんだろうと感心させられました。この芸風の魅力には逆らえません。

大森同じ芸風のまま洗練されてきた感じ。同じことやってるんだけど、技が磨かれている。宅配ピザの代金の小銭をかぞえるっていうシーンが山場になるのはいつもの西村賢太ですが、今回はそれがタイトルになってて。

豊崎前回候補作(「どうで死ぬ身の一踊り」)ではチキンライスとカツカレーに怒りをぶちまけ、今度は出前の寿司とピザにクライマックスシーンを用意する。賢太、けっこうグルマンです(笑)。印刷会社に支払うお金の期限が迫って、困り果てた〈私〉が古い友人を茨城まではるばる訪ねるシーンで、その友人を説明するのに〈合コンと云うのに一度も声をかけてもらえなかった〉〈結婚式的なものにも、ついぞ呼んではもらえなかった〉とか、わざわざ〈と云う〉〈的なもの〉とつける。このひがんだ自虐的な筆致がこの作家の文体の味になってますよね。

大森漢字の勉強にもなるし。〈慊い〉(あきたりない)なんて漢字、初めて見た。

豊崎絶妙なのが、同棲してる女に借金を頼むとき、〈でもその前に、音楽止めていい?〉っていうシーンで流れてるのが稲垣潤一。この選択がすばらしい。ああ、主人公の同棲相手ってのは稲垣潤一を聞く女なんだなあっていうインプットが、のちに池袋――この街の選択も素晴らしいんですが――で待ち合わせたときの彼女の垢ぬけない格好をひどい物言いで描写するシーンの心理的な伏線になってるでしょ。〈ただでさえ小柄なちんちくりんのくせに〉だの〈救いようのない野暮ったさ〉だの〈まるで、むく鳥〉だの、ひどすぎ(笑)。

大森僕が一番笑ったのは、50万円借りるのに成功した主人公がしみじみしあわせを実感するときの形容。〈四辺に薫風を感じさせる心持ち〉って……(笑)。

豊崎二人で3000円くらいの焼ソバを池袋へ食べに行き、また古本屋で女に本を買わせて〈あたしからすれば、冗談みたいな高さだよ〉と言われると、案の定キレるシーンに至っては「よっ、待ってました」と大向こうから声を掛けたくなるほどの素晴らしさ。〈それだったらさっき本を買う前に、その財布の中の状態を告げてくれるべきだったのである〉という開き直りが賢太節の真骨頂です。

大森もっと強く言ってくれればオレだって買わなかったのにと。

豊崎せめて食事し終わって家で言ってくれと。

大森このへんはリアルですよね。うしろめたさを抱え込んでいる分、指摘されるとよけいに腹が立つという、人間心理の微妙なあやをみごとに描きだしています。

豊崎健康保険とか年金をお父さんに払ってもらってるけど、そろそろ自分で払いたいってすごくまっとうなことを言ってる女に、〈お父さんが、じゃねえよ。今、おまえはぼくと生活してるんだから、そんなの持ち出してくんなよ〉とキレるこの身勝手さ加減。あー、やっぱり好きだなあ。正直今回読んでていちばん楽しかったのが、この作品でした。

大森だからといって芥川賞とるかというと、ねえ。

豊崎それはムリ。でもね、この人の小説を読むと、多少悲しいことが起こっても、「自分はまだまだ大丈夫」って晴れ晴れした気持ちになれるんですよ。ある意味、癒し小説にすらなっているのがすごいじゃないですか。

大森あと、古本の値段交渉のシーンは迫力満点なんで、古本オタク系のヒトにもおすすめです。

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