文学賞メッタ斬り!トップ > ROUND1 レース予想 > 芥川賞候補作紹介
ROUND 1候補作発表を受けて、大森望&豊崎由美による受賞レース予想!!
芥川賞候補作紹介
●西村賢太「小銭をかぞえる」(「文學界」2007.11)
孤高の作家、藤澤清造の歿後弟子を名乗り、全集の自費刊行に着手している主人公。その印刷費内金の支払いが来週に迫り、あせっている。古書店に蔵書を売りに行くが思うような値がつかない。昔の知人を思い出し突然茨城まで行き借金を頼むが断られ、逆ギレして帰る。最後の手段で同居する彼女に、実家から工面してもらうよう試みる。過去に三百万円もの大金を借りたうえ、暴力をふるう男であったので難航するが何とか都合してもらい、上機嫌になり彼女を外食に誘う。しかし些細なことからまた諍いになり、ひとりで家に帰り特上寿司をとる。金のない彼女は、貯金箱から小銭をあさり、ピザの代金を支払う。それが癇に障り、暴言を吐き続けたのだった。
●楊逸「ワンちゃん」 (「文學界」2007.12)
ワンちゃんは、日本人男性に中国人女性を紹介する、国際結婚の仲介を商売にしている。中国では自分の洋服店を持ち、デパートに十数店を構えるほど繁盛させたが、結婚した相手が働かず女癖も悪くすぐに破局、財産と息子の親権をとられてしまう。失意の中さらに仕事に打ち込むが、夫がたびたび金の無心に現れ、それから逃れるために、国際結婚し外国に住もうと決意。お見合いパーティーで日本人と結婚し、四国に住むようになったものの無口な夫に馴染めず、自立のため始めた結婚仲介の仕事に精を出す。見合いの参加者、土村の相談に乗るうち、お互いに惹かれ始めるが、結婚相手が決まり準備を進めてゆく。
●川上未映子「乳と卵」(「文學界」2007.12)
夏休み、大阪から姉の巻子と娘で小6の緑子がやってきた。巻子は離婚してホステスをしながら緑子を育てている。今回の上京の目的は、東京で豊胸手術を受けること。何十件も病院を調べ、電話でもさんざん説明してきたが、なぜそこまで豊胸手術にこだわるのか、わたしは理解できない。一方緑子は、あるときから一切口を聞かず、会話はメモに書いてする。翌日病院に行くと出かけた巻子は、離婚した夫と会って遅く帰ってきた。緑子は巻子に感情を爆発させ、ほんまのことゆうて、と叫び、そこにあった卵を頭に叩きつけていった。
●中山智幸「空で歌う」(「群像」2007.8)
兄の哲哉が事故で死んだ。部屋を片付けに行った時に見つけた、ロケットに自分の物を乗せる申込書と、電話番号のメモ。電話番号は兄の別れた彼女水野さんで、僕は彼女に誘われ、一緒にロケットの打ち上げを見学に行くことになった。妻のマキにはもちろん内緒だ。車で九州を縦断して、種子島までフェリーで向かう長旅の間、とめどなく話をする。宇宙や星が好きだった兄のこと、水野さんが子供のころ行った九州旅行の話、神話の話。僕は水野さんに惹かれていくが、彼女はこのロケット打ち上げに、重要な意味を持っていたことがわかる。
●山崎ナオコーラ「カツラ美容室別室」(「文藝」2007.秋)
高円寺に引っ越してきたオレ、淳之介は、友人の梅田さんに誘われ「桂美容室別室」に髪を切りに行く。その夜、カツラをかぶった店長カツラさん、店員のエリと桃井さんらと夜花見に行きなじんでいった。やがてエリと二人で美術館に行ったり、居酒屋で急性アルコール中毒になって世話してもらったり、恋愛になりそうなのだが、そうでもない。そのうちエリからカツラさんの愚痴を聞かされるようになり、疲れてくる。店を去ることになったカツラさんが次の店長に年下の桃井さんを指名し、荒れるエリ。キレて客を殴り、咎めるオレに、エリは絶交を言い渡す。しかし、次の花見にはまた揃って集まり、なんとなくみんなつながっている。
●田中慎弥「切れた鎖」(「新潮」2007.12)
地方の財閥、桜井家の一人娘梅代は、出戻ってきた娘美佐子と、その娘の幼稚園児美佐江と広大な屋敷で暮らしている。美佐子は方々に男を作って出歩き、美佐江の世話は梅代の役目だ。屋敷の裏には在日朝鮮人の教会があり、かつて梅代の夫が教会内の女と浮気をし、出て行ったことから、梅代とその母は激しい憎悪を抱え忌み嫌ってきた。ある日美佐子は明け方まで戻らず、不安を抱え美佐江とファミリーレストランに行き、街をさまよう。教会への嫌悪感から美佐子に与えてきた傷を思い、教会の男がひきずる鎖の音に怯える。しかしそのしこりは孫にまで及び、美佐江は教会の男を蹴ろうとするのだった。
●津村記久子「カソウスキの行方」(「群像」2007.9)
親切心から後輩のセクハラを部長に訴えたら、逆にはめられて本社から郊外の倉庫に飛ばされてしまった、27歳独身のイリエ。二つ年下の上司、藤村と、同い年の森川、あとはパートだけの職場で、全くやる気がでない。おまけに居候していた友人のしおりは結婚が決まり、会社契約の古いアパートに引っ越すことになり、ますますすさむ。そこで、人生への意欲を仮想的に満たすため、森川を「仮想好き」にすることにした。森川の健康診断票をコピーしたり、食材を借りたり、テレビ番組を勧めてみたり、地味に行動してみる。二人きりになっても何事も起こらず、しかしなぜかイリエが森川の元妻に会うことになるなど、微妙な関係が続く。やがてイリエは本社に、森川は中国に赴任することに。
