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ROUND 4 直木賞選考会 前編

第137回直木賞候補作 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店) A A
桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』(東京創元社) A A
松井今朝子『吉原手引草 』(幻冬舎) B A-
畠中恵『まんまこと』(文藝春秋) B B+
北村薫『玻璃の天』(文藝春秋) B+ A-
万城目学『鹿男あをによし』(幻冬舎) B B
三田完『俳風三麗花』(文藝春秋) B- B

*豊崎は、『まんまこと』『玻璃の天』のダブル受賞を予想

北村薫『玻璃の天』

北村薫『玻璃の天』 (文藝春秋) 5回目 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B+ A-

あらすじはコチラ

豊崎いやー、いっそここまで開き直られると潔くて気持ちいいですね。「文藝春秋が主催してんだから、文藝春秋の本に授賞して何がいけないのか」と。「北村さんは朝日新聞の本ではあげられなかったけど、ちゃんと次のウチの本で授賞させるつもりだったんですよ」と。まあ、そういうことなんでしょう。目をつぶって◎つけときゃいいんだから、大変予想が楽です。

大森今回は文春が一番の激戦区だったんですよ。その証拠が、前回(136回)『どれくらいの愛情』で候補になった白石一文の書き下ろし長編『永遠のとなり』。文春から6月15日に出たのに、なぜか奥付は5月31日(笑)。直木賞上半期の候補(“12月1日〜5月31日までに公表されたもの”が対象)に入れる予定だったのに、激戦に敗れてしまったらしい。

豊崎ある種、カバディのインド代表みたいなもんですよ。アジア大会の時でも、大会本戦じゃなくて、インドの国内戦を勝ち抜くのが一番大変なんですから。それくらい文藝春秋はレベルが高いってことなんでしょうね。素晴らしき哉、文藝春秋! はははっ

大森貫井徳郎『夜想』も落ちた。きっと、『永遠のとなり』ともども、伏兵の『俳風三麗花』に倒されたんでしょうね。しかも、厳正な投票の結果、今回の文春枠は『玻璃の天』俳風三麗花』『まんまこと』の3冊に決まったらしくて、バランスがぜんぜん考慮されてない。『玻璃の天』を入れるんなら、ふつう(同じ時代が背景の)『俳風三麗花』ははずすでしょう。直木賞候補7作のうち、文春が3作で、そのうち2作が昭和7年の話と昭和8年の話って……。

豊崎しかも、3作とも連作短編なんですよね。長編がない。
大森今回7作は、きれいに3ブロックにわかれるんですね。江戸の時代物が2冊と、昭和7,8年の東京ものが2冊と、京都・奈良・鳥取の西日本ものが3冊と。最後のブロックが森見、万城目、桜庭の若手トリオで、ここは一応、現代もの。

豊崎『赤朽葉家の伝説』は歴史ものといえるし、時代小説のステージに上がっても大丈夫ですよ。

大森昭和史を語ってるしね。今回の候補7冊の特徴は、現代物のいわゆるリアリズム小説が1本もないこと。7冊読んでも、会社員がたぶん一人も出てこない。『夜は短し歩けよ乙女』の乙女が木屋町を夜歩いてるときに出会った中に会社員がいたかもしれないけど。とにかく、ほんわかした話と時代物ばっかり。

豊崎ま、とにもかくにも「北村さん、おめでとうございます」ってことですよ。わたし、この令嬢とベッキーさんシリーズは大好きなので楽しく読めましたけど、わたし以上に大森さんがほっとしたのでは?(笑) これなら心おきなくほめられるでしょ。

大森前回の『ひとがた流し』をクソミソにけなした罪滅ぼしというわけじゃないんですが、これにはなんの文句もないですね。北村薫の小説のイヤなところが最も目立たない舞台設定だし。現代小説では成立しえない寓話かもしれないけど、戦前の上流階級の話だったら、これもありと。小川洋子の『ミーナの行進』をミステリにしたようなかんじ。

豊崎北村さんの生真面目さって、この参考文献のところにあらわれてますよね。参考文献と記述が類似するのはこういうわけで、ってちゃんと説明してます。

大森ツモ爺(津本陽)と違って、そのまま引き写しはしないと。

豊崎こういう気配りの細かさっていうのはすばらしいですね。いやー、ほんとによかった。さあ、大森さん高らかに褒め上げてくださいよ。前回の大森さんの心なき発言に大変心痛めてたんですから、北村さんは。

大森いやいや(笑)。とりあえず、草野満代問題(「第136回 直木賞候補作を斬る!(前編)」参照)については反省しました。別にモデルでもなんでもなくて、取材相手に感謝しただけだったと。勝手に勘繰るほうが悪い。そもそも『ひとがた流し』の読み方が根本的に間違ってたみたいですね。まあ、過ぎた話はともかくとして、このベッキーさんのシリーズは、「円紫さん」シリーズ、「覆面作家」シリーズに続く、本格ミステリ連作です。北村さんにとってはこっちが本線でしょう。三部作になるらしくて、『玻璃の天』は真ん中の第二部。1作目の『街の灯』がなんで直木賞候補にならなかったかというと、たぶん「本格ミステリ・マスターズ」という叢書から出たせい。この叢書はもう20冊近く刊行されてるんだけど、1冊も直木賞候補になってない。要するに、本格ミステリは直木賞の対象外だと思われてたんですね。東野圭吾『容疑者Xの献身』の受賞で、そのへんも変わってくるだろうけど、『玻璃の天』のほうは、『街の灯』の続編なのに、「本格ミステリ・マスターズ」じゃなくて、ふつうの四六判ハードカバー単行本で出た。となりに並んでも、ぜんぜんシリーズには見えないんだけど、前作はすでに文春文庫に入ってるからもう大丈夫と。

豊崎素晴らしき哉、文藝春秋! 準備万端怠りなしですね。よっ、商売人!

大森シリーズの中途半端なところで授賞するのは直木賞の得意技だし。

豊崎この2部に入ってベッキーさんのことがちょっとずつわかってくるところが、シリーズファンにはたまりません。

大森『玻璃の天』には中編が3本入ってて、基本は一話読み切りなんだけど、三部作を通しての話もある。ぼくは一話目の「幻の橋」がいちばんよかったな。次の「想夫恋」は暗号の話、三話目の「玻璃の天」はめずらしく“いかにも”という本格ミステリ。

豊崎館ものですよ、これは。

大森建築家本人も出てきますからね。まあ、トリックはそんなに派手じゃないけど。

豊崎万が一落ちたらどうします?

大森万が一……にも落ちない。

豊崎いやあ、想定外が直木賞の専売特許ですから。下読みしてる文春社員の思惑や腹芸なんて、選考委員の先生方には関係ないっちゃー関係ないですからね。たとえば、畠中さんの一作受賞とかありえるんじゃないかなー。

大森最悪のケースというか、いちばんクソミソに言われそうな、でもひょっとしたらあるかも……というケースがそれ。

豊崎でしょう?

大森今回の候補で大変面白いのが、今年の山本周五郎賞受賞作(森見登美彦)と、それを選んだ選考委員(北村薫)の作品とが一緒に並んでること。しかも、新たに直木賞選考委員に加わるのが、山周賞選考委員である浅田次郎さん。浅田さんはついこのあいだ、北村さんと一緒に山周賞の選考をやって、受賞作に森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』と恩田陸『中庭の出来事』を選んだわけですよ。その2カ月後に、今度は同僚選考委員の作品を選考する立場になる。やりにくいだろうとなあと思うけど、これはもう、推さないわけにはいかないでしょう、人として。

豊崎浅田さんは苦労人で場の空気も読めるし、ちゃんとした選評も書ける人ですから、まあジュンちゃんみたいに無体な発言はしないでしょうね。

大森前回の『ひとがた流し』のときは、一回目の投票では残ったものの、強く推したのは北方謙三ただひとりで、ろくな議論もなくあっさり落ちたらしいんですが、さすがにもうそういうことはないはず。津本陽に代わって浅田次郎が選考委員に入ったんだし、しかも今回で5回目の候補入りだし。

豊崎ほんとにね、浅田さんは言ってくれますよ。「北村氏を落とすのは人の道としてどうなのか、諸君」って。あとの焦点は、前回の受賞作なしの補填としての二作受賞があるかどうかだけですね。

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