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ROUND 2芥川賞選考会 後編

円城塔『オブ・ザ・ベースボール』

円城塔『オブ・ザ・ベースボール』 (「文學界」2007.6) 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B B+

あらすじはコチラ

大森文學界新人賞受賞作です。

豊崎超前衛SFの『Self-Reference ENGINE』と比べると、非常にわかりやすい作品。そのぶん、驚愕度が低い。『Self-Reference ENGINE』って小松左京賞の応募作ですよね。てことは、円城塔さんは、SFのひとより、文學界選考委員のほうが頭が悪いって判断を下して投稿したんですね。たいへん人が悪い(笑)。

大森「オブ・ザ・ベースボール」は流して書いたと本人も言ってますね。あえて密度を下げた作品。これよりもっと気合いを入れて書いた中編が、「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」で、そっちは群像新人賞の二次まで残った。伝え聞くところによると、最終選考に残すかどうかという段階で、「アサッテの人」とキャラがかぶるからという理由ではずされたらしい。ところが、群像編集部の配慮もむなしく、芥川賞でまた円城塔が「アサッテの人」とぶつかることになってしまった(笑)。「オブ・ザ・ベースボール」より「パリンプセスト〜」のほうが出来はいいんだけど(笑)。

豊崎円城さんって、同時期にいろんなところに作品おくってたんですか?

大森最初に『Self-Reference ENGINE』を小松左京賞に送って、「受賞作なし」という結果が出たあと、落選作を早川書房に投稿した。で、採否の返事を待ってるあいだに中編を2本書いて、群像新人賞と文學界新人賞に1本ずつ出した。最後に書いた「オブ・ザ・ベースボール」が文學界新人賞をとり、芥川賞候補になったという経緯です。

豊崎「オブ・ザ・ベースボール」を読むと、80年代を思い出しました。バーセルミ的な世界をブローティガン風味で描いた? みたいな。わたしのような年齢の者からするとすごく懐かしい小説なので、それなりに楽しく読みましたが。

大森高橋源一郎でしょ。

豊崎ゲンちゃんの素だってバーセルミやブローティガンじゃん。でも、こういう作品を今の若いひとはどう思うんですかね? むしろ新しい印象を受けるのかな。

大森全体にいま、80年代回帰みたいな傾向がありますよね。こないだ三島賞とった佐藤友哉の『1000の小説とバックベアード』もそうですけど、流行りはじめたころのポストモダン小説みたいなのが20年ぶりくらいに復活してる感じがある。今回の芥川賞の候補作のラインナップにもちょっとそんな感じが反映されてるような気がしました。ちなみに「オブ・ザ・ベースボール」の題名は、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の駄洒落で、要するに「バッター・イン・ザ・ライ・オブ・ザ・ベースボール」ということらしい。サリンジャーのキャッチャーは崖の上で遊んでる子供が落っこちないように捕まえる係のことですが、もしそれが野球のキャッチャーだったら……という発想。ちなみに円城さんは『ライ麦畑』読んでないそうですが(笑)。

豊崎あ、そうなんだ。

大森読んでないけど、だいたいの内容は知ってるから、このぐらいの小説は書けると。

豊崎わたしがおもしろいと思ったのは、空からじぶんたちにむかって人間を投げてくるひとがいて、でもそれはピッチャーじゃなくて、キャッチャーだっていう解釈です。“空のキャッチャーは非常に職務熱心で、崖へ向かって殺到する馬鹿野郎どもを必死に受け止めては投げ返しているのだという。この町に落っこちてくるのはキャッチャーの腕をすり抜けることに成功した奴ら”だって発想、これはなかなかでてこないと思った。でも、俺たちはバッターなんだからそれはおかしい、“キャッチャー対バッターなんて勝負は聞いたことがない”と。

大森ふつう、落ちてきた人を助けるのはキャッチャーの仕事でしょ。なのになぜレスキュー・チームがバットを持って走りまわるのか。

豊崎「アサッテの人」の諏訪さんと正反対の書き方ですね。物語の背景説明を書かないでしょ、円城さんは。わたしは書かないタイプの作家が好きなので、円城さんの評価のほうが高いんです。つい理に落ちたようなことを書きたくなったりするわけじゃないですか。人間がなんで落ちてくるのかとかね。でもそれって書いたとたん、かっこわるいものになっちゃう。80年代のポストモダン小説の特徴のひとつは、書かないことで格好を保つって手法があったと思うんです。「オブ・ザ・ベースボール」はそこをクリアしてる。でも、それを石原慎太郎や宮本輝が受け入れるとは思えない。まあ、受賞はないでしょう。

大森万が一、受賞したら大爆笑。と言いつつ、今回、発表の当日は、たぶん円城さんと一緒に待ってますけど。

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