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ROUND 2芥川賞選考会 前編

柴崎友香『主題歌』

柴崎友香『主題歌』(「群像」2007.6) 2回目 当落予想
◎=本命 ○=対抗 ▲=大穴
作品評価
A〜D
大森 豊崎 大森 豊崎
B B-

あらすじはコチラ

大森川上未映子さんと柴崎友香さんが関西弁対決。ごくふつうの大阪女性が好きなひとは、柴崎さんをどうぞ。

豊崎そうですね。友だちになりたくなる女性がいっぱい出てきます。

大森会社にもちゃんと勤めてる。友だちがいて、ホームパーティとかやって、楽しんでる。「主題歌」ってすごい一時期の吉田修一っぽいと思ったんですけど。

豊崎なるほどー。

大森『パレード』とか『パーク・ライフ』の大阪バージョン。つまり、柴崎さんは山本周五郎賞をとってから芥川賞をとるといいんじゃないか(笑)。(注/吉田修一は第15回山本周五郎賞を『パレード』で、第127回芥川賞を『パーク・ライフ』で受賞)

豊崎「群像」の合評で「主題歌」が取り上げられてましたけど、鹿島田真希さんがうまいこと言ってたんですよ。弱酸性ビオレみたいな小説だって。ぜんぜんほめことばじゃないと思うんだけど、読んだ感触がリアルに伝わる評だと思いました。あと同じ合評の中で、陣野俊史さんが、女の子がアメリカのピンナップガールを愛でるのは不思議だ不思議だと、やたら言い募ってたのがそれこそ不思議で。

大森そこがこの小説のいちばんのポイントなのに。そういう女性がいかにたくさんいるかってことが、文学史上はじめてきちんとリアルに描かれた小説なのに。

豊崎そうですよねえ。わたしのまわりにもいますもん。グラマラスな美女好きの女子はごちゃまんと存在します。

大森叶姉妹の写真集を買ったりね。サンフランシスコに住んでる女房の妹なんか、帰国するたび、女友だちのために「PLAYBOY」とか買ってくるし。そういういまどきのガーリー文化の一面をちゃんと書いてる。

豊崎「グレート生活アドベンチャー」の描いてるのが、いつの時代のニートだよってのと比べると――。

大森まさに好対照。それにしてもこれ、作中に出てくるのが、スカーレット・ヨハンソンが表紙になってる「月刊PLAYBOY日本版」2006年12月号。特集が「最もセクシーな世界の美女100人」で、たまたまうちにもある号だったんで、妙にうれしかった(笑)。ほら、これの次の1月号がミステリ特集で。

豊崎ああ、北上さん大森さんと乱歩邸で鼎談した号ですね。

大森ともあれ、「月刊PLAYBOY日本版」のことをこれだけ詳しく書いた小説もたぶん初めてでしょう。それだけじゃなくて、パーティのシーンもよく書けてる。急に泣き出しちゃう女の子がいて、そこに帰ってきてしまう間の悪い男が玄関先でぼーっと立ってるとか、そのままドラマになりそう。このへんのうまさも吉田修一っぽいと思いました。

豊崎前回候補になった「その街の今は」のときもさんざん言いましたが、柴崎さんてすごく小説を書くのがうまいでしょ、破綻がない。描写も的確にできて。だから、群像の合評でも「共感を求めて書かれた小説」みたいに言われてたけど、本人は、べつに共感してほしいと思って書いてないと思うんですよ。今回だって「その街の今は」みたいに、カメラアイみたいなものを1枚余分に通して、ある程度の距離感をもって場面を写し取るみたいなことをしてるわけで、その行為は「共感を求める」意図からは遠いと思うんです。ただ、いい意味でも悪い意味でもそこからは脱してないっていうのが弱点のような気はしますが。

大森でも、「主題歌」は「その街の今は」とは、文体がぜんぜん違いますよ。こっちは主人公の実加の視点でずっと書いてるんだけど、ところどころ、一瞬だけ、別の人物の視点が挿入される。たとえばここ。実加が友だちの花絵の個展に来て、花絵としゃべってる。それを見ているギャラリー店主の視点がいきなり入る。“そんな二人の会話をすぐそばで別のお客さんと話しながら聞いていたギャラリー店主は、実加の横顔を見て、どこかで見たことがあると思ったけど、話を中断して聞くほどのことではないと思い直した”。

豊崎ありましたね、視点が瞬時に切り替わる場面。

大森ほんの一瞬、二秒くらいかな、入れ替わってまた戻る。一カ所だけじゃないから明らかに意図的なんだけど、その意図がよくわからない。たしかにアクセントになってるとは思うんだけど。

豊崎カメラの台数を増やしたのかな? 柴崎さんは、目と耳がいいひとなんですよ。だから会話も描写もすごくうまい。ただまあ、悪いひとが登場しないっていうか、出てくるキャラクターが似たりよったりで、生活レベルもほぼ同じ、考え方もさほど違わないひとたちばっかりで、異物感がなさすぎるのは弱いのかなって気はする。

大森でも、実際の生活でも、そんなひとまわりにいないでしょ。みんなでホームパーティとかやるよって集まったりした時に。

豊崎川上未映子の主人公みたいなのが急に来て“わたくし率 イン 歯ー!”とか言い始めたら面白いじゃん(笑)

大森そんなひとはふつう呼ばない。「あいつがくるならいかない」ってひとが必ず出てくるから。

豊崎大森さんの指摘どおりカメラアイのあり方に多少の変化をもたらして、バランスがとれたぶん、逆に受賞から遠ざかったって気がするんですよね、わたしは。

大森いや、これは近づいてるでしょう。

豊崎そうかなあ、芥川賞じゃないでしょう、これは。

大森いやいや、“芥川賞じゃないような気がする”やつが芥川賞をとるんですよ。絲山秋子だって「沖で待つ」だったわけだし(参考/134回予想対談より)。

豊崎このガーリートークを、慎太郎とかがどう読むのか。女の子が女の子について“ええやろ? 最近、太ももが好きで、やっぱりむちむちの、丸い感じがええわ”とか言ってるのを、目をパチパチパチパチさせて「最近の若い娘の間ではレスボスばやりなのかね」って?(笑)。

大森もっとも、消息筋の情報によると、今回の受賞はないそうです。柴崎さんは今年の下半期に「文學界」に新作が載るから、3回連続で候補にして、3つ目のそれで受賞というコースがすでに決まっている。

豊崎なんでそんなことを知っておるのかっ!?

大森と、スパイが言ってました(笑)。ま、その場の流れで、そううまくは運ばないかもしれませんが。選考委員が場を読めなくて、「次の作品でとらせる予定だったのに、一回早く授賞しちゃったよ」とか。

豊崎シンちゃんなんてなぁーんにも考えちゃいませんから。しかも、柴崎さんの小説が唯一ふつうのひとを主人公にしてますから、和むんじゃないですか? みんなほっとして勢いで印つけちゃったりして。

大森うーん、そう言われると、だんだん今回で受賞の目もありそうな気がしてきた。▲(穴)付けておくか(笑)。

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