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ROUND 1候補作発表を受けて、大森望&豊崎由美による受賞レース予想!!

芥川賞候補作紹介

●松井雪子『アウラ アウラ』(「文學界」2007.3)
私の中には赤ちゃんがいる。そう感じている。ある理由から、心を鬼にして妊娠を装った私は、その必要がなくなってからも(対外的には流産したことにした)、お腹の中に子どもの存在をたしかに感じている。やさしい思い出話ばかりを語りかける。ある日、ネットでみつけたホームページで、おなじような女性たちがいることを知り、私は、ホームページの管理人「チコ」に、「赤ちゃん」がやどったいきさつをメールする。

●前田司郎『グレート生活アドベンチャー』(「新潮」2007.5)
東京生まれの無職の僕。狭いアパートでえんえんと、魔王を倒すテレビゲームをやっている。実際の所持金よりゲームの中の「G」のほうがずっと多い。あまりにもお金がないので、恋人の加奈子のアパートに転がり込む。加奈子は毎日、スーパーのレジ打ちのバイトに行っている。ゲームをやってるか寝てるかの僕よりよっぽど元気なくせに「将来の不安はないのか」と聞いてくる。加奈子のいない昼間、加奈子の少女漫画を読んだり、加奈子の日記を読んだり、その続きをつけたり(これは怒られた)する僕。ふと実家にも帰ってみたが、両親は若くして死んだ妹の喪にまだ服しているようだ。加奈子が何日か外泊して帰ってきた夜、僕は加奈子に「結婚しよう」と言ってみる。加奈子はあいてにしてくれないが、僕はなんかそれでうまくいくような気がするのだった。

●川上未映子『わたくし率 イン 歯ー、または世界』(「早稲田文學」0)
わたしは“奥歯を私であると決めた。鏡の奧に映して見える鏡の奧に映せば見える”からだ。脳のように見えない存在ではしっくりこないのだ。わたしは、歯医者の助手のアルバイトをはじめた。毎日、「お母さん」という主語で「おまえ」に呼びかける日記を書いている。日記には「青木」という男について多くがさかれている、中学のとき、「雪国」の冒頭の文章のすごさについて教えてくれた。この文章の主語はトンネルをくぐっていく電車でもなく、主人公でもないのだと。ある日、わたしのつとめる歯医者に青木がやってくる。治療を終えた青木を家まで追うが、青木はわたしを憶えていなかった。昔のことを切々と訴えるわかしだが、青木の彼女に、鬱陶しいおまえはだれなんだと罵倒される。ストーカーと疑われ、警察沙汰になる寸前で逃れてきたわたしは、歯医者に行き、奥歯を抜く。麻酔なし抜いてほしいと頼む。激しい痛みのなかで回想する中学時代。その中で、「雪国」の冒頭の文章を教えてくれたときの青木、青木の教えてくれた言葉の世界に感謝している。

●円城塔『オブ・ザ・ベースボール』(「文學界」2007.6)
俺の住んでいるのは、ファウルズという町。この町には、人が降ってくる、俺たちは、そのレスキュー・チームとして、ユニフォームとバットを支給されている。この町ではとりあえず尊敬を集める存在だ。人がなぜ降ってくるのか、どこから降ってくるのか、それについては諸説あるが結局のところわからない。国文学者たちは、空には職務熱心なキャッチャーがいて、崖から落ちてくる馬鹿野郎どもを必死で受け止めては投げ返している、そのキャッチャーの腕からすりぬけるのに成功したのがこの町に落ちてくるやつらなのだという。しかし、俺たちがバッターであるのなら、空にいるのはピッチャーでなくてはならないと思うのだ。ある日、とうとう、落ちてくるひとかげを見つけた俺はそれを打ち返したが……。

●柴崎友香『主題歌』(「群像」2007.6)
キャラクター商品をつくる仕事をしている実加と同僚のいつ子、小田ちゃんはかわいい女の子が大好きだ。職場の後輩の愛は月曜日ごとにおみやげをくれる変わった子だが三人は気に入っている。そもそも、小田ちゃんがアイドルや女優や周りの女の子などのかわいさにめざとくて、いつも話しているのを聞いて、実加はじぶんもかわいい女の子が好きなのだということに気づいたのだ。同性愛ということではなく、かわいい女の子を見たり、話したりすることがとにかくうれしいのだ。同居している洋治の許しを得てて、ある土曜日、実加は女の子だけのカフェパーティを企画する。じぶんの好きな女の子たちが知り合って、楽しいときを過ごしているのを見て、実加は幸福につつまれる。そのすぐあと、小田ちゃんの結婚式があり、そこで、小田ちゃんが昔「ナンパ」したという女の子のオリジナルソングを聞き、この歌がここで歌われたことはけっして消えないのだ、と感動する。

●諏訪哲史『アサッテの人』(「群像」2007.6)
旅に出てしまったまま、行方のわからない叔父。私はその叔父についての小説『アサッテの人』を完成させようとしている。材料は、叔父との交流の記憶、いままで書きためた叔父についての草稿、叔父の家から出てきた三冊分の日記。叔父の妻、朋子は、交通事故で亡くなっている。私の第一稿は、彼女の視点で書かえれている。叔父は「ポンパ!」「チリパッパ!」といった意味不明のことばをひんぱんに口にする癖があった。それらの語の発語には一定のルールがあるらしかったが、叔父以外には理解できなかった。なぜそうした語を発するのか。その裏には、叔父が小さいころから苦しめられていた吃音癖があると思われる。私は本人の日記を紹介することでその苦しみの日々を綴る。そのあとの私の考察。二十歳になって吃音を克服した叔父は、逆に吃音的なものを求めた。それが「アサッテ」誕生の瞬間ではなかったろうか。

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